お茶壺道中―この言葉を初めて目にしたとき、すごく惹かれるものがありました。「お茶壺が旅をするのか…」と、なんとも言えない面白みを感じたのを覚えています。
それから一年ほど過ぎた頃、図書館でお目当ての本を探してうろうろしていると、「お茶壺道中」という背表紙が目に飛び込んできました。
梶よう子さんの長篇小説 -お茶壺道中-

そんな本があるとは思ってもいなかったので驚いてしまい、迷わず手に取りました。
「お茶壺道中」とは、江戸時代、将軍家に献上するお茶を宇治から江戸まで運んだ行列のこと。幕府から派遣された採茶使や多くの家来たちが茶壺と共に江戸を出発し、宇治の茶師が用意した碾茶を詰めてまた江戸まで戻るのです。幕府の権威を示すこの行事は極めて重要な公務であったため、庶民にとっては粗相のないよう静かにやり過ごさなくてはならず、恐れられていたとのこと。
私がその時代の人間だったら同じように恐れていたのでしょうが、現代に生きる者としてその歴史を学んでみると、すごく興味深い一大プロジェクトだなと感じます。
この小説は、お茶を取り巻く時代背景と、年に一度のお茶壺道中を見ることが大好きな少年の成長を描いた物語です。
読み終えて思ったことは、緻密な取材を重ねて丁寧に書いたのだろうなということ。時代の流れや登場人物、当時のお茶の扱いなど、私がインストラクター試験のために勉強したお茶の歴史が、きちんと描かれていました。おかげで、改めて学び直すよい機会になりました。
お茶という題材でこんなに面白い話になるんだという驚きと、お茶に誇りを持ち、お茶と共にひたむきに生きていく主人公に惹きつけられる良い本でした。


